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おしりの医学#087「痔瘻(じろう)の手術の心配事〜肛門括約筋への影響は?」

「ある病院で痔瘻の手術の予定があるのですが、手術同意書に『痔瘻の場合、肛門括約筋の一部を切開しますので、肛門の力は少し弱くなります』と書いてありました。問題はないのでしょうか?」という質問をいただきました。そこで今回は、痔瘻の手術について重要なポイントと注意点について解説していきます。

痔瘻は肛門括約筋の切除が必要

痔瘻は肛門の奥にある肛門陰窩(こうもんいんか)という部分に雑菌が入り、炎症を起こすことで発症する痔の一種です。患部が化膿していくことで穴が開くのが特徴で、最終的には肛門付近に達し、トンネル状になるのが特徴になります。
今回の質問では肛門括約筋の一部を切除することに関して同意を求められたということでしたが、そもそも痔瘻は穴が肛門括約筋を貫くように形成されます。よって、基本的には肛門括約筋の一部を切除しなければいけません。
近年は肛門括約筋へのダメージを最小限に抑えるような術法も出てきていますが、再発のリスクを考慮すると、今のところ現実的なのは肛門括約筋を切除するような術法となります。

痔瘻の手術で重要なのは切除する範囲

基本的に肛門括約筋の切除が必要になる痔瘻の手術では、切除する範囲が重要になります。ひと昔前の痔瘻の手術では、再発を防止するために広範囲の肛門括約筋を切除することが多かったです。結果、肛門機能が大きく落ちてしまい、便漏れなどが起こる恐れがありました。
現在の痔瘻の手術では、術後の肛門の機能性と根治性のバランスを考慮し、切除する肛門括約筋の範囲を絞った手術を行うことが主流です。肛門括約筋の切除範囲を最小限に抑えるためには、医師の実力も重要になってきますので、痔瘻の手術を受けるのであれば有名な医師の診察を受けることをおすすめします。
痔瘻に関しては現在も様々な術法が開発されていますが、肛門括約筋を切らず、再発率の低い術法が発見されることを期待したいですね。

痔瘻の手術を受ける前の注意点

痔瘻の手術を受ける前の注意点として、そもそも痔瘻なのかをしっかりと確認することが重要となります。痔瘻は保存療法で治療が困難な上、癌化のリスクもあるため、まず手術が必要になる症状です。しかし、痔の症状によっては誤って痔瘻と診断されてしまうこともあります。
特に肛門付近に穴が開いていない場合は別の症状である可能性があるので、複数の医師に受診し、病名を確実に特定するのがおすすめです。痔瘻の手術を行うと大なり小なり肛門括約筋が切除されてしまうので、肛門の機能の低下は免れません。
他の症状であるにも関わらず手術を行ってしまうのは、術後の人生に負担がかかってしまうので、複数の医師の意見を聞き、確実に痔瘻であると分かってから手術を行うようにしましょう。

平田雅彦プロフィール(平田肛門科医院 院長)
1953年 東京都生まれ。
筑波大学医学専門学群卒業。慶應義塾大学医学部外科学教室に入局し、一般外科を研修。
社会保険中央総合病院大腸肛門病センターに入り、大腸肛門病の専門医としての豊富な臨床経験を積む。
現在、平田肛門科医院の3代目院長。

平田悠悟プロフィール(平田肛門科医院 副院長)

1982年 東京都生まれ。
筑波大学医学専門学群卒業。東京大学大腸肛門外科入局後、東京山手メディカルセンター大腸肛門病センターに出向し、
大腸肛門病の専門医としての豊富な臨床経験を積む。
2020年 東京大学大学院医学系研究科外科学専攻医学博士課程修了。
現在は平田肛門科医院の副院長。