痔は切らずに治す

痔のセルフケア

便秘対策②食物繊維の摂取

便は、もとをたどれば食べ物ですから、便秘にも下痢にも痔にも、食事の内容が大きく関係します。便秘の解消には、ビフィズス菌が豊富なヨーグルトなどの乳製品や、食物繊維がたくさん含まれている穀類、豆類、野菜、海藻類などを日常の食事でたっぷりとるのがベストです。

便秘予防も決め手は食物繊維

食物繊維は、食物に含まれていても人間の消化酵素では消化されない成分で、以前は、栄養もなく役に立たないカスといわれていました。

ところが近年の研究で、食物繊維には便秘を解消し、コレステロールの吸収を抑え、大腸がんの発生を低下させるなど、生活習慣病を防ぐ働きがあることが明らかになってきました。

そこで、食物繊維は、たんぱく質・糖質・脂質・ビタミン・ミネラルの5大栄養素に並ぶ「6番目の栄養素」として注目されるようになったのです。便秘を解消するいちばんの方法は、この食物繊維を多くとることです。ところが、現代人の食事は食物繊維が少なくなる傾向にあります。大量に消費される魚介類や肉類には、食物繊維がほとんど含まれていませんし、きゅうりやトマト、レタスといった定番の野菜類に含まれている食物繊維の量はごくわずかです(可食部の重量の1%前後)。

便秘の人に意外に多く見られるのが、消化のよいものだけを食べていることです。消化のよいものは便になるものの量が少ないので大腸の粘膜への刺激も小さくなり、蠕動運動が起こりにくくなって、便通が悪くなります。

便秘をなくすには、大腸の粘膜を刺激し、便の材料となり食物繊維の摂取が欠かせません。その食物繊維には、水にとける水溶性食物繊維と、水にとけない不溶性食物繊維があります。

水溶性の食物は、果物、こんにゃく、海藻類などに含まれており、不溶性の食物繊維は、穀類、野菜、豆類、いも類などに含まれています。両方とも便の量をふやす働きがあり、水溶性のものは便をやわらかくし、不溶性のものは腸管を刺激する作用があります。

日本人の食物繊維の摂取量の目標は、18歳以上で1日あたり男性19g以上、女性17g以上です。しかし、現代の日本人は、食生活の欧米化が進み、特に若い世代では平均すると1日15gもとっていない世代が多いことがわかっています(「平成20年 国民健康・栄養調査結果の概要」より)。もっと食物繊維を積極的にとるようにする必要があります。

食物繊維のとり方のポイント

食物繊維は、ただたくさんとればよいというわけではありません。あまり多くとりすぎると、食物繊維がビタミンやミネラルなどの栄養素の吸収率を低下させてしまいます。

しかし、食物繊維の多い食品は、たいていビタミンやミネラルも豊富に含んでいますから、多少、吸収がそこなわれても問題にはなりません。

普通の食事から食物繊維をとっている限りは、まずとりすぎの心配はありませんが、気をつけたいのは、精製した食物繊維や、食物繊維の摂取を目的とした健康食品を錠剤などの形でとる場合で、過剰に食べないように摂取量をチェックする必要があります。

また、便秘と下痢を交互にくり返すときは、ストレスなどが原因の「過敏性腸症候群」で腸がけんれんしていることがあります。このようなけいれん性便秘の場合、食物繊維は腸を刺激して症状を悪化させるので、摂取を控えてください。

落とし穴もあります。食物繊維といえば野菜ですが、野菜サラダだけ食べていれば1日に必要な食物繊維の所要量が満たせるかというと、そう簡単にはいきません。

食物繊維20gをトマトやきゅうりでとろうとすると、トマトなら10~20個、きゅうりなら20本以上食べなくてはなりません。トマトやきゅうりを、そんなに大量に食べると満腹になってしまって、ほかの食品を食べられませんから、どうしても体に必要な栄養がとれず、栄養失調になっていしまいます。つまり、トマトやきゅうりの生野菜サラダでは、十分な食物繊維をとるのは無理だということです。

平田病院では、患者さんに食物繊維を何gとったかを計算して日記に書いていただいています。毎日、自分が食べている食品の中に食物繊維がどのくらい含まれているのかを意識することが、食物繊維を積極的にとることにつながるからです。面倒ですが、各食材の食物繊維や代表的なレシピの食物繊維量が記載されている本を患者さんに渡して参考にしてもらっています。

不溶性と水溶性の食物繊維を同じくらい食べよう

前述したように、食物繊維には、水にとけない不溶性食物繊維と、水にとける水溶性食物繊維の2種類があります。

不溶性食物繊維には、セルロース、ヘミセルロース、リグニン、キチンなどあり、はじめの3つは植物の細胞壁の成分で、豆類、きのこ類、穀類、いも類などに多く含まれています。キチンは、えびやかにの穀の成分です。

水溶性食物繊維は、ペクチン、グルコマンナン、カラギーナン、アルギン酸などで、海藻やこんにゃくに多く含まれています。 不溶性食物繊維は、便のかさをふやし、腸の働きを活発にして便秘の解消と有害物質の排泄に効果があります。一方、水溶性食物繊維は、ブドウ糖の腸からの吸収速度をゆるやかにして、血中の糖やコレステロールの値を低下させます。また、腸内でビフィズス菌を増加させる働きもあり、便秘や下痢を抑える効果もあります。

不溶性食物繊維と水溶性食物繊維を大体半分ずつの割合で、1日に18歳以上の男性で合計19g以上、女性は17g以上とるようにしましょう。

かたい便をやわらかくする

理想的な便のかたさは、チューブ入りのねり歯みがきのようなやわらかさと説明しましたが、では、かたくなってしまった便をやわらかくするにはどうしたらよいのでしょう。水をたくさん飲めばやわらかくなるでしょうか。

1日に腸に流れ込む水分の量はけっこう多く、唾液、胃液、胆汁、膵液、腸液などの消化液だけでも約10Lにもなります。口から入る水分の量はせいぜい2Lで、1日に5Lも飲める人はいません。つまり便の中の水分の大部分は消化液の水分なのです。しかも、1日に12Lも流れ込む水分のほとんどは大腸に吸収されてしまいます。

かたい便に直接100mlの水をまぜれば、さしものかたい便もたちまちやわらかな下痢便になりますが、私たちがコップ1杯の水を飲んでも下痢便になりません。それは、腸が水分の吸収をコントロールしているからです。少々水を多く飲んだところで、腸はたちまち吸収してしまうので、便はやわらかくなりません。

では、どうすれば便のやわらかさをコントロールできるでしょうか。それは、腸が吸収できない状態の水分を便の中にため込めばよいのです。それには、食物繊維の中に含まれている水分がうってつけなのです。

食物繊維の中の水分は腸に吸収されにくいので、食物繊維を豊富に含む食品をたくさん食べれば便をやわらかくすることができます。食物繊維のために便の量がふえて腸の蠕動運動も促されますから、さらに便秘解消の効果が期待できます。