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おしりの医学#022「肛門狭窄(きょうさく)は手術が必要?」

肛門狭窄はなぜ起こるか

肛門狭窄と診断されて、病院で「手術を受けてください」と言われた方からのご質問です。
肛門狭窄というのは、肛門が炎症を起こすことで切れ、治る過程でひきつれてしまって、徐々に肛門が狭くなってしまう症状を指します。狭くなることによってまた切れてしまい、手術が必要だと言われてしまう方が多いかと思いますが、実は肛門の粘膜は2か月ごとに生え変わりますので、しっかり炎症をコントロールできれば、徐々に肛門は緩み、広がっていきます。
また、「狭い」という症状を訴える方の中には、実は切れ痔の痛みのせいで自ら締めてしまっているケースがあります。この切れ痔が改善したり、2カ月経過して粘膜が再生すると、広がってきます。ですので、余裕を見て3カ月経過観察し、わたしたちは肛門狭窄かどうか、手術が必要かを判断します。

3年かけて手術なしで改善した事例

平田肛門科医院での手術率は18.2%ですから、約8割の患者さんは手術の必要はありません。実例をお話しますと、20代の女性で、他の医院で手術に失敗し、肛門が狭くなってしまい、鉛筆の太さ以下になってしまったケースがありました。その女性は自殺を図り、お母さまとともに地方都市から当院へいらっしゃいました。皮膚を移植する手術をしても、2割程度しか広がらないため、実に3年かけて2カ月に一度生え変わる粘膜を柔らかくする処置を行い、人差し指が入るくらいには広げることができ、帰宅されました。数年後にはご結婚をされて赤ちゃんも生まれ、ありがとうございましたというハガキをいただきまして、とても嬉しく思いました。

日帰り手術は将来に不安、当院では10日入院での手術を実施

肛門狭窄の手術は方法がいくつかありますが、一番良いのは皮膚移植です。皮膚移植であれば、括約筋を傷つけずに拡張することが可能です。肛門狭窄の一番の問題点は、括約筋がきついわけではなく、粘膜が伸びないことですから、粘膜を入れていくことがベストとなります。ただ、拡張率は20%程度のものですから、以前の状態に戻れるわけではないのですが、学校で「パスカルの原理」を習ったことがあると思いますけども、水道の直径を1割広げると圧力が1/3になりますので、切れにくくなり、さらに広がっていくということです。
肛門の皮膚移植手術(SSG)では、10日間の入院が必要となります。日帰り手術であるLSIS、括約筋を切ってしまう方法では、一時的に肛門は広がりますから、肛門狭窄はなくなりますが、20年後30年後、年齢を重ねて括約筋が緩くなったときに便が漏れてしまう可能性があります。この手術は日帰りもでき、一見簡単にみえますが、将来の患者さんの排便コントロールにも責任を持たざるをえないので、当院では原則実施しておりません。

平田雅彦プロフィール(平田肛門科医院 院長)
1953年 東京都生まれ。
筑波大学医学専門学群卒業。慶應義塾大学医学部外科学教室に入局し、一般外科を研修。
社会保険中央総合病院大腸肛門病センターに入り、大腸肛門病の専門医としての豊富な臨床経験を積む。
現在、平田肛門科医院の3代目院長。