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Dr.Hipsが語る〜痔を知り、楽に治す方法〜

おしりの医学#032「直腸粘膜脱について」

痔の原因は肛門周りの異常だけではありません。肛門と直結する直腸の異常が肛門に悪影響を与え、痔の発生や既存の痔の悪化を引き起こすことがあります。今回は直腸の病気の中でも痔への影響が大きい「直腸粘膜脱」についてお話しします。

直腸粘膜脱とは

「直腸粘膜脱」とは直腸を支えている組織(コラーゲンファイバー)が様々な原因によって弱くなり、直腸の粘膜が肛門に向かって下がってきてしまうことです。似た病気に「直腸脱」というものがありますが、直腸脱は直腸全体が下がってしまうことを指します。直腸粘膜脱は直腸脱よりも肛門側に下がる範囲が狭いこともあり、「不完全直腸脱」と呼ばれることも多いです。

直腸粘膜脱の症状

直腸粘膜脱は肛門の病気ではありません。しかし、肛門が直腸粘膜に押されることで、間接的に様々な症状を肛門にもたらします。主な症状は以下の通りです。

  • 粘液の漏れ
  • 肛門の出血
  • 肛門のかゆみ
  • 残便感
  • 内痔核などの脱肛

特に内痔核などの脱肛については、直腸粘膜脱の症状がない人と比べると腫瘤が強く押し出されてしまうため、悪化の要因となります。また、肛門の出血やかゆみについても放置しておくと悪化する可能性が高いので、早めに専門医の診察を受けることをおすすめします。

直腸粘膜脱になる3つの原因

直腸粘膜脱になる原因には以下のようなものがあります。

  • 生まれつき直腸を支える組織が弱い
  • 排便時にいきみすぎてしまう
  • 加齢による筋力の低下

原因を把握しておけばある程度の対策も立てやすくなるので、それぞれ良く確認しておきましょう。

生まれつき直腸を支える組織が弱い

人によっては直腸を支える組織が生まれつき弱い人がいます。胃下垂の人が自然と胃が下がってくるように、コラーゲンファイバーが弱いことによって、直腸粘膜がすぐに下がってしまうのです。
直腸粘膜脱は肛門への負担になるため、生まれつき直腸粘膜脱になりやすい人は、おしりの病気になりやすいといえます。

排便時にいきみすぎてしまう

排便時にいきむことが多い人は、直腸粘膜脱になる可能性が高いです。いきむ力が強いほど血圧が上がり、身体にも負担がかかります。場合によっては脳の血管が切れるほどまで血圧が上がることもあるのでいきみすぎは危険です。
直腸粘膜への負担も大きく、いきみすぎるとコラーゲンファイバーが壊れてしまい、肛門に向けて下がってしまいます。
直腸粘膜脱を予防したいのであれば、便秘を解消するなど、排便習慣を改善することが重要です。

加齢による筋力などの低下

加齢による筋力の低下も直腸粘膜脱になる原因です。歳を重ねると、肌が垂れ下がるのと同じように直腸を支えるコラーゲンの弱くなり、直腸粘膜が下がってきます。加えて、内蔵を支える骨盤周りの筋肉も衰えてくるため、直腸自体が下がりやすくなり、肛門への負担が大きくなるのです。
裏を返せば、骨盤周りの筋肉を鍛えれば加齢による直腸粘膜脱の予防になります。骨盤周りの筋肉を鍛えると尿もれや便もれの予防にもなるので、試してみると良いでしょう。

直腸粘膜脱によく似た病気

直腸粘膜脱には、以下のようなよく似た症状や原因を持つ病気が存在します。

  • 直腸脱
  • 直腸粘膜脱症候群

それぞれ直腸粘膜脱が悪化したり、病態が変化して罹患することもあるので、合わせて把握しておきましょう。

直腸脱

まずは冒頭でも話した直腸脱です。直腸脱は直腸粘膜の全周が下がってきてしまう病気で、文字通り直腸が肛門から脱出してしまいます。初期症状のうちは排便時にいきんだ際に直腸粘膜が出てきてしまうくらいで済むのですが、症状が進むと立ち上がったりするだけでも直腸が脱出してしまい、自然とは戻らなくなってしまうのが特徴です。
症状は直腸粘膜脱のような肛門の出血やかゆみの他、便漏れなどもあるため、日常生活にも支障をきたす可能性があります。直腸粘膜脱と同様、排便時のいきみすぎが原因であることが多く、特に高齢の女性に良く見られます。

直腸粘膜脱症候群

「直腸粘膜脱症候群」という病気も直腸粘膜脱によく似ています。直腸粘膜脱症候群も直腸粘膜脱と同様、直腸の粘膜が下がってくる病気なのですが、直腸粘膜脱症候群の場合は直腸粘膜がしわのようになるのが特徴です。
直腸粘膜脱症候群になった直腸は「直腸がん」になった時とよく似ていますが、生体組織診断をしてもがん細胞は発見できないため、判別ができないということはありません。

直腸粘膜脱を防ぐためにも排便時のいきみすぎに注意しよう

直腸粘膜脱などは、日ごろ排便時にいきみすぎていると発症することが多いです。直腸粘膜脱を予防したいのあれば、食事に気を付けたり、定期的な運動をするなど、便秘や下痢などを抑えるよう心がけましょう。排便習慣が改善されれば、直腸粘膜脱だけでなく様々なおしりの病気を予防できる可能性が高いです。
直腸粘膜脱は直腸が下がってきて肛門に悪影響を与えます。結果的に痔を誘発したり、元々あった痔を悪化させる可能性があるので、症状を感じたら早めに専門医の診察を受けることをおすすめします。

平田雅彦プロフィール(平田肛門科医院 院長)
1953年 東京都生まれ。
筑波大学医学専門学群卒業。慶應義塾大学医学部外科学教室に入局し、一般外科を研修。
社会保険中央総合病院大腸肛門病センターに入り、大腸肛門病の専門医としての豊富な臨床経験を積む。
現在、平田肛門科医院の3代目院長。