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おしりの医学#089「「脱肛」は必ず手術は必要ですか?」

今回はライブ配信第2回にいただいた質問についてお話しします。「脱肛Ⅲ度です。日本大腸肛門病学会の専門医に診察を受け、早めに手術が必要と言われました。しかし、今のところ特に生活に支障は感じておらず、手術はなるべく避けたいと考えています。このまま様子見でも大丈夫でしょうか。」とのことです。脱肛Ⅲ度は一般的には手術の適用範囲と言われていますが、症状によっては手術せずに治療できる可能性があります。今回は痔の大きさではなく、症状に合わせた治療法の選び方について解説します。

脱肛Ⅲ度は必ず手術が必要?

一般的に、Goligher(ゴリガー)分類で脱肛Ⅲ度の場合、手術の適用範囲になります。しかし、必ず手術が必要というわけではありません。脱肛Ⅲ度とは、内痔核の症状が悪化し、排便の度に内痔核が肛門から外に出てきてしまう状態のことです。脱肛の症状の中でも重い症状に入ってきており、状況によっては手術が必要になる場合があります。
しかし、内痔核は基本的には良性の疾患であり、必ずしも切除が必要になるようなものではありません。重要なのは症状をとることです。内痔核が起因となる症状としては、炎症による痛みや排便の際の出血などがあります。炎症の痛みが強く、脱肛した内痔核を戻すのが困難な場合や、出血量が多く貧血を起こしてしまう場合など、症状が重い場合は手術が必要になることが多いです。しかし、脱肛Ⅲ度でも症状が軽いのであれば、手術せずに治療ができる可能性があります。

まずは保存療法で様子を見るのがおすすめ

症状が重い場合でも、まずは保存療法で様子を見るのがおすすめです。3ヶ月程度生活習慣を見直し、座薬などで治療していくことで、炎症が収まり、痛みや出血が収まる可能性は十分にあります。また、炎症には内痔核を一時的に大きくする症状もあるので、炎症が収まることで内痔核が小さくなり、脱肛の頻度も減ることも少なくありません。よって、当院では脱肛Ⅲ度の症状がある場合でも、すぐに手術を行うのではなく、まずは保存療法で様子を見ることが多いです。
また、仮に内痔核を手術で切除したとしても、生活習慣が改善されていないと、再発してしまう可能性が高くなります。再発の度に手術をしていると、肛門の形状が変形してしまい、日常生活に支障が出る恐れがあるので、可能な限り生涯で受ける手術の回数を抑えた方が安全です。術後の再発を避け、再発のリスクを減らすためにも、手術を受ける前に生活習慣の改善を行うことをおすすめします。

保存療法がの目安が3ヶ月程度である理由

保存療法で様子を見る場合、最低でも3ヶ月程度の経過観察が必要になります。理由は皮膚のターンオーバーにかかる期間が3ヶ月程度であるためです。粘膜の場合はもう少し早くターンオーバーしますが、内痔核のできる場所なども考慮して、当院では保存療法の期間を3ヶ月としています。
もちろん、保存療法中に出血がひどい場合や、痛みがひどい場合などは、早めに手術を検討することがあります。とはいえ、保存療法を実施していて症状が改善しないことは基本的にはありません。当院に手術が必要と覚悟して来院される患者様も、9割程度は保存療法で症状が改善し、手術せずに治療に成功しています。脱肛の症状が重く、手術が必要と言われた場合でも、症状によっては保存療法で治療できる可能性は大いにあるので、複数の専門医の診察を受け、治療方法を模索してみるのがおすすめです。

平田悠悟プロフィール(平田肛門科医院 副院長)
1982年 東京都生まれ。
筑波大学医学専門学群卒業。東京大学大腸肛門外科入局後、東京山手メディカルセンター大腸肛門病センターに出向し、
大腸肛門病の専門医としての豊富な臨床経験を積む。
2020年 東京大学大学院医学系研究科外科学専攻医学博士課程修了。
現在は平田肛門科医院の副院長。