痔は切らずに治す

痔のセルフケア

便秘対策①生活習慣の改善

人間は、胃・結腸反射、姿勢・結腸反射(起立反射)、視覚反射という3つの神経反射によって排便しています。この3つの神経反射をうまく生かすことが便秘を防ぐコツです。

神経反射をじょうずに使い便秘を予防する

朝、起きて、からっぽの胃の中に食べ物が入ってくると、その刺激によって腸が動き出し、「胃・結腸反射」を起こします。この反射は食事のたびに起こりますが、胃がからっぽの時間が長ければ長いほど、また、食事の量が多ければ多いほど活発になります。

また、朝、目覚め、起きて立ち上がると、その刺激で大腸の蠕動運動が始まり、「姿勢・結腸反射(起立反射)」が起きます。

朝は、この胃・結腸反射と姿勢・結腸反射がもっとも強く起こりやすいときです。ですから、毎日、朝起きたら、ある程度ボリュームのある朝食をきちんと食べて便意を待ち、自然な排便チャンスを生かしましょう。それが、便秘予防の第一歩です。

また、便をやわらかくしようと水やお茶をガブガブ飲む人がいますが、胃酸の分泌を低下させて食欲不振をまねき、排便が不規則になってしまうことがあります。もっとも効果的に水分をとるには、起床時に冷たい水やお茶を1~2杯ゆっくりと飲むことです。便に水分をあたえると同時に、「胃・結腸反射」を起こすのに効果があります。本来、人間は便秘になるようにはつくられていません。

便意を感じ、排便が起こるように作用する「胃・結腸反射」「姿勢・結腸反射」「視覚反射」という3つの神経反射がそなわっているのも、排便を確実にするためです。そして、特殊な病気がない限り、程度の差はあっても、どんな人にもこの3つの神経反射は必ず見られます。

もともと人間が持っているこれらの反射神経を利用することが、もっとも自然な便秘の予防になります。

便秘の原因は生活習慣の乱れ

便秘には、単純性便秘(一過性便秘)と常習性便秘(習慣性便秘)があります。単純性便秘は、旅行中は緊張してお通じがなかったが帰宅したらあったというような、生活リズムの変化のために起こる一時的な便秘のことで、ほとんど心配はいりません。

そもそも便秘とは、どんな状態をいうのでしょうか。日本内科学会の便秘の定義によると、3日以上排便がないか、毎日、排便してもまだ便が残っているような感覚(残便感)がある場合とされています。

こういう状態が日常的につづくことを常習性便秘といい、根本的な治療が必要になります。

便秘になる原因には、食生活やストレス、運動不足など、いろいろ考えられますが、最も多いのは「便意を逃す」ことをきっかけにした便秘です。朝食を抜くと「胃・結腸反射」が起こりませんから、朝の便意が弱くなり、排便のチャンスをつかめないことになりがちです。また、朝、忙しさにまぎれてトイレに行きそこなったり、来客があってトイレに行くのをがまんしたりしていると、便意そのものを感じなくなってしまいます。

また、ダイエットのために1日に口にする食事量が少ない場合も、そもそも腸に入ってくる便の材料が少ないために腸の活動が不十分になり、便意が起きにくくなります。

生活習慣による便秘以外では、大腸がんや直腸がんの腫瘍ために腸が細かくなり、通過障害のために便秘を起こしている場合もあります。

また、高血圧や胃潰瘍、うつ病などの治療に用いられる薬の副作用で便秘になる場合もありますから、これらの病気で薬を飲んでいて便秘がひどくなった場合は、医師に飲んでいる薬と便秘症状などをよく説明して、便秘対策を相談しましょう。

便秘・痔を悪化させるもの

日常的に多くの人が口にしている食品などにも、便秘を悪化させる可能性のある食品があります。

よく、香辛料は痔に悪いといわれます。香辛料で口がピリピリするようにお尻も……というイメージなのでしょうが、実際、香辛料の中でも消化吸収されにくいとうがらしを多量に摂取すると、便の中に刺激成分が残って、排便時に肛門をピリピリさせることもあり、炎症を悪化させたり、痔のきっかけになることもあります。

とうがらし以外にも、こしょうやわさびなどの香辛料には充血を促す刺激成分が含まれています。いずれも食欲を増進させたり血行をよくしたりする効果もあるので、ほどよく利用しましょう。もちろん、痔の具合が悪いときは、激辛料理や食べ慣れないスパイシーなエスニック料理などには手を出さないほうが賢明です。

アルコールやタバコなどの嗜好品はどうなのでしょうか。アルコールは血行をよくするので、冷えなどが痔の原因になっている人には、適度の飲酒による効果を期待できる場合もありますが、うっ血してはれや炎症が悪化する危険もあります。

タバコは便秘の解消になると言って、吸っている人がいるようです。しかし、タバコは肺がんの原因になったり、狭心症や心筋梗塞を誘発するなど、健康にさまざまな害をおよぼします。前述したように、神経反射を利用して便意を促したり、生活習慣を改善することによって、便秘は予防することができます。

タバコに頼らず、自然な排便ができるような習慣を身につけましょう。

下剤を飲むときには医師の処方を

多くの人が「薬はなるべく飲みたくない」というわりに、便秘になったら気軽に下剤を飲んでいるようです。

習慣的に適当な下剤を買ってきて飲むのは危険です。下剤には副作用があり、依存性が生じて下剤を飲まないと便が出なくなることもあります。また下剤は、いつ服用をやめるのかの判断が大事で、医師はやめ時を前提にして下剤の処方を考えます。

ひと口に便秘といってもさまざまなタイプがあります。たとえばけいれん性便秘は、S状結腸がけいれんして便の通過障害を起こすために生じる便秘です。下剤を服用すると、さらに腸が刺激されてけいれんし、腹痛や下剤を起こすことがあり、医師の診断を受けずに安易に下剤を飲むと、ますます症状を悪化させます。

下剤にもいろいろな種類があり、便をやわらかくするものや腸を刺激して便意を促すものなど、薬ごとに作用はさまざまです。けいれん性便秘に限らず、習慣化した便秘に下剤を使う場合、まず医師の診断を受けてください。一時的に下剤を使う際も、医師や薬剤師によく相談して使いましょう。

【COLUMN】
過敏性腸症候群

過敏性腸症候群とは、胃腸の働きをコントロールしている自律神経と腸壁神経系の働きが何らかの原因で乱れることによって、下痢や便秘などの便通異常をくり返したり、頭痛、めまい、肩こりなどの自律神経失調症の症状があらわれるものをいいます。検査を行っても、症状の原因になるような炎症や潰瘍など、目に見える異常が見当たらないのが特徴です。

世界的に認められている過敏性腸症候群の診断基準は次のようなものです。

①症状の原因として、器質的異常、または代謝異常がないこと。
②腹痛、または腹部の不快感が、過去1~2ヵ月中に、途中に間隔があいても連続的に1~2週間以上ある。
③次の3項目のうち、2項目以上の特徴がある。
・排便によって症状が軽減する
・排便回数の変化で症状が始まる
・排便した便の形状の変化で始まる